「生きるとは、怒りや哀しみとの闘い」 by 貴家悠

「テラフォーマーズ」原作者・貴家悠さん 生きるとは、怒りや哀しみとの闘い
【2014.8.6】産経ニュースから

「アニメの文法は漫画とまた違って見ていて楽しい」と話す貴家悠さん

累計発行700万部を超える人気漫画「テラフォーマーズ」(集英社「週刊ヤングジャンプ」)。連載は4年目に入り、20日に単行本第10巻(アニメDVD同梱版)が発売され、今秋にはテレビアニメの放映もスタートする。原作を担当する貴家悠(さすが・ゆう)さん(25)は、これがデビュー作。未来の火星を舞台に繰り広げられる戦いには、「生」に対する熱い思いが込められている。

同作の舞台は約600年後。地球の人口激増への対策として火星開発を進めるため、コケとともに火星に放たれ、数百年をへて人型に進化したゴキブリ「テラフォーマーズ」と人類の戦いを描くSFアクション。巨大化したゴキブリと戦うため、登場人物は手術によってハチ類で最強の毒を持つオオスズメバチ、絶滅危惧種であり、生物界で最も強力な糸を作り出すオオミノガ(ミノムシ)など、さまざまな生物の特性を身につける。敵であるゴキブリをはじめ、生態や能力が詳しく描写され、小学生から大人まで、男性を中心に人気が高い。「ゴキブリが進化するというアイデアはすぐに浮かんだけれど、その後行きづまったんです。でもある朝、ランニング中に人間が何か生物の力を借りて立ち上がるという絵がぱっと浮かんだ」と貴家さん。

それからは近所の図書館に通って資料に当たり、さまざまな生物の生態を調べた。「調べていると『すごい! 面白い!』と思う。だから読者ともそういう感動を分かち合えているのかな」と笑う。

第2巻から始まる2部では、ゴキブリとの戦いと並行して、人間同士の争いが始まる。各国の思惑がからみ、中国を中心としたチームの裏切りも描かれる。「SF漫画というのはファンタジー漫画と違って、どこか現実とつながっている部分がある。今の現実世界を僕がこうとらえているというわけではなく、僕らの世界と作品世界をつなぐエピソードとして描いています」

 子供の頃から漫画家に憧れたが10代はラグビー部の活動に熱中。描き始めたのは大学に入ってから。2年の終わりに、「2年やってダメだったら就職する」と親に約束し、休学して漫画に打ち込んだ。当初、作画の橘賢一さんのアシスタントに応募するため同作を集英社に持ち込んだ貴家さん。担当編集者の新藤正人さんは「絵はともかく、ストーリーは本当に面白かった。だから橘さんが絵を描くことになったんです」と連載までの経緯を話す。

 設定はもちろん、謎の多さや迫力満点のバトルで人気の同作。登場人物の過去の苦しみや友情にも共感が集まる。「途中で打ち切られない限り、謎は解明させるつもり(笑)。僕は、生きるということは、それこそゴキブリみたいにどうしようもなくわいてくる怒りや哀しみとの闘いだと思う。実際にゴキブリとの戦いを描くことで、それを伝えたい」